ワルシャワはブダペストにはならなかった
2011年10月9日のポーランドの国会議員選挙の結果に対し多くの者が安堵の念を抱いたが,驚かなかったものはいなかった。現職の首相ドナルド・トゥスク は1989年以降初めて2期連続で首相に選出されたが,今回の選挙での真の大穴候補は,自身が主導する政党が今回の選挙で10%の得票率を収めた,反教 権主義者であり小政府主義者のジャナス・パリコトであろう。
中道右派の「市民プラットフォーム」(党)は39%の票を獲得し,30%の得票率を誇る最大野党の国家保守派の「法と正義」(党)を打破した。「市民プラットフォー ム」のリーダーのヤロスワフ・カチンスキ氏は選挙結果に対し,同じく中道右派保守政治家でハンガリーの首相オルバーン・ヴィクトルと自身を照らし合わせ, 「ワルシャワがブダペストのようになる日がくるだろう」とコメントした。
1つの選挙、2人の勝者
しかしながら一番予期されていなかったことは,パリ コト運動党が国会で第三党となったことだろう。この党は哲学部卒業生であり実業家であるジャナス・パリコト氏がわずか4ヶ月前に政党登録をしたばかりだ。市民プラットフォームの党員時,パリコト氏は政治的ピエロや党の工作員などと呼ばれた。彼は若い女性が警察署で性的暴行を受けた際の記者会見で,注目を集めよう とおもちゃの拳銃とバイブレーターを振りかざしてみせるなどの奇行におよび,非難を浴びた。 また,他の時には「マフィアからの贈り物だ」と言いテレビ番組に血の滴る豚の頭を持って行ったりもした。
そんな奇行からほんの数ヶ月後,パトリコ氏は政教分離,ゲイやレズビアンたちの同性結婚,人工中絶の合法化,薬物のより寛容な政策等,世間が敏感な問題について躊躇することなく運動をしている。既存政党に自分たちの声が届いていないと感じている国中の若者がこのような政策を支持している。
ツイッターユーザーのszwalowskiは10月9日に次のようにツイートした。
パリコト氏はマドリードやテルアビブで抗議活動に参加した人々の声を代表している。(ツイッターでのハッシュタグは#wyborczaである。#wyboryではない。)
同日,同じくツイッターユーザーのpawelbieleckはパリコト氏の成功を他に起因しようとしている。
パリコト運動がこんなに素晴らしい成果を出したのはPRが素晴らしかったか,ポーランドの政界に有権者がうんざりしているからかのどちらかだろう。
パリコト運動のフェイスブックページに,Mateusz Drulisは次のように書いている。
いつか政治家たちが,ジャナス・パリコトだけでなく,彼を支持するポーランド人150万人をないがしろにしているんだと気づくことができるのなら,そんな素敵な時代をこの目でみたいものだ。
パリコトは若者たちの間では,他の政治家と比べてずっと正直ものだと謳われ,彼らはパリコトの勇気ある反教権主義に惹かれている。あるテレビジャーナリストが、JPLL世代,つまり、「ヨハネ・パウロ二世」世代がJP世代,いわゆる「ジャナス・パリコト」世代に直面している,と言ったが、それは的を得ている。
また、パリコトの政党は,高校生が中心となって活動した予備選挙でも勝利を収めている。36パーセントに近い未来の有権者がパリコトの政党を支持した。デーブ・シーマンは10月14日にパリコト運動のフェイスブックページに次のようにコメントした。
こうなることはわかっていた。人間というものはある年齢になると意見を持つものであって,一度意見を持つと変えたりはしない。若年の時に比べると それほど他の意見に対してもそう耳を傾けなくなる。とういうことは,パリコト運動は現在10%の支持だけれども将来につながる運動だ。まあ最低でも僕はそう 願っている。
ブロガーのNocriは,パリコトの成功が示すものはポーランド社会が必要とする,明確な変革だと考えている。
パリコトはポーランド政界の新しいアイコンとなった。前回の選挙は,私達がこの20年間うまく踊らされていたこの政治体系を変革しなくてはならない時期だと示した。パリコトは恥の象徴となったけれども,彼は勇気ある決断をも象徴した。全政党が勢力を上げて勝ち取ろうとしていた若者の票は彼に流れた。彼は若者の間でもシンボルとなっ た。
pawel_meteoは10月9日にツイッター上で,パリコト陣営は大麻の合法化を持ちだしたりするなど,今は亡き大衆主義者のアンドレイ・レッパーのように大衆主義をテーマに掲げたことで成功したと述べている。
市民権運動者達が国会へ
パリコトの成功を受けて,トランスセクシャルのAnna Grodzka や,同性愛者であると宣言しているRobert Biedron,フェミニスト活動家のWanda Nowickaが国会議員となった。投票日前日に,のちに当選を果たし国会議員となるAnna Grodzkaは自身のブログでいかに選挙活動が自分の生活を変えたかと主張した。
この選挙活動中やここ2,3年,私はいろいろな人のお世話になった。今まで経験したことのないくらい沢山の友達から支援してもらった。皆が一緒になって近代的で公平なポーランドのために戦った。多種多様だけれども平等なポーランド人達がこの世界でいい国だと感じられる,そんな国にするために。
ポーランドの保守的ジャーナリストでカトリック系活動家のTomasz Terlikowskiは,自身のポータルサイトの「我々は戦争に突入した」と題したポストで,次のように述べている。
ポーランドの有権者は今回の選挙で,教会に対して恥知らずの攻撃をしたことでしか知られていない男が指導者で,自らを女と公言する男や,子供を殺 害することを唱えつづける女や,たった一つの取り柄が男が好きなことでしかない男に支持されている政党を第3政党にしてしまった。
人々がなんと言おうと,これだけは確かである。今回の選挙は,ポーランド社会がここ数年でいかに変わったかということを露呈した。その変化というのは,パリ コト運動党以外の全政党が無視続けたものである。パリコトは絶大なる支持を示した若者大衆のために戦うのか,それとも落胆させるのか,どちらであろうか。
Tomek Alfik Frontczakはパリコト運動のファイスブックページで10月10日に自身の希望を次のような明るいポストで表現した。
ジャナスありがとう! とっても最高だよ! 君のおかげでポーランドはやっと近代国家の仲間入りができるよ。運動を支持した仲間を落胆させないでくれよ。私達は今幸せすぎてどう表現していいかわからないくらいだ。体に気を付けて頑張ってくれよ!






























この記事は、以下の言語にも翻訳されています:






















はじめまして。
パリコト運動は個人的自由にに関して左派という点では単にいままで社会主義者(民主左翼連合という政党連合)が唱えていたものと全く同じです。
ポーランドの人は社会主義(個人的自由に関する左派&経済的自由に関する左派)に抵抗があるので、リバタリアニズム(個人的自由に関する左派&経済的自由に関する右派)を標榜するパリコト運動に飛びついただけです。(ノーラン・チャートを参照)
その証拠に、与党第一党かつ最大政党で保守主義(個人的自由に関する右派&経済的自由に関する右派)の「市民プラットフォーム」と、最大野党でポピュリズム(個人的自由に関する右派&経済的自由に関する左派)の「法と正義」のそれぞれの(得票減少率/得票率)は小さく、上記の民主左翼連合の(得票減少率/得票率)が非常に大きく、民主左翼連合から票がゴッソリとパリコト運動に流れただけであることがはっきりしています。
つまり、ポーランド国民が既成の政治に不満をもったわけでなく、社会主義政党にかわって「個人的自由の左派」を標榜する新しい受け皿政党が欲しかっただけです。
その証拠に、パリコト運動を支持している人たちは「社会保障の充実」という、「経済的自由に関する右派政策」理念のひとつとするリバタリアニズムではおよそありえない「経済的自由に関する左派」政策を求めています。
ですから要するに、この手の政党が政権をとったら結局行き着く先はイギリスの「第三への道」式の簿外公的資産処理です。
世界の金融が不況に陥るとあっというまに破綻し、これらの民営化事業体の債務は政府すなわち有権者が面倒を見なくてはならなくなるのです。
まあ、ポーランド人の大多数は賢いのでそれがわかっていますから、実は彼らはパリコト運動なぞにはじめから興味がないのです。
ポーランド人は右派でも左派でも急進的な政治姿勢は嫌だという人が大多数です。
彼らにとっては保守主義(個人の自由に関する右派&経済の自由に関する右派の組み合わせ)は穏健主義・中庸主義、すなわち「反急進主義」のことです。
この「反急進主義」はポーランドが生んだ偉大な哲学者レシェク・コワコフスキによって再定義された「市民」の概念に沿うもので、ですからこの国の与党第一党は「市民プラットフォーム(=市民綱領)」という名前なのです。(日本で濫用される「市民」とはだいぶ違う概念ですね)
彼ら保守主義者は旧連帯系ですが、民主化の前は当時の社会主義政府を「急進主義者の政府」と見ていたわけです。
この保守主義は精緻で徹底した政治哲学的確信に基づいた反急進主義ということです。
直観や感情の結果ではありません。
ちなみにジェンダー問題や宗教問題など個人的自由に関してパリコト運動のアジェンダと同じ考えは市民プラットフォームの側にもあります。
ただ市民プラットフォームはパリコト運動のような社会の伝統的倫理観と真っ向から対立して破壊していくような急進的姿勢はとりません。
社会の潮流や市民のコンセンサスを重視しあくまで漸進的に改革します。
個人的自由に関する左派を支持する急進派ポーランド人は実は社会のごく一部で、上のカタジナ・オドロゼク(Katarzyna Odrozek)女史もおそらくそうなのでしょうが、要するに彼らは今回の選挙結果を完全に読み違えて糠喜びしているだけです。
ちなみにパリコト氏の名前Januszは「ジャナス」でなく「ヤヌシュ」(ないし「ヤヌーシュ」と表記してもよい)と読みます。