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パキスタン:ハザラ人虐殺―世界はなぜ黙り込んでいるの?

カテゴリー: 南アジア, パキスタン, 人権, 宗教, 市民メディア, 戦争・紛争, 抗議, 政治

この10年間で、バロチスタンの首都クエッタでは、多くのハザラ人が矢面に立たされ残酷に殺された [1]。ハザラ人は、過激派イスラム原理主義者や、市街地を徘徊する宗教組織によって民族襲撃のターゲットになっている。

ハザラ人の子どもたち アフガニスタン中部ダイクンディにて 写真:Iqbal Ahmed Oruzgani (許可を得て掲載)

少数民族ハザラ人 [2]は、ダリー語の方言であるハザラギ語を話す。彼らは民族的にはハザラ民族に属し、イスラム教シーア派を宗教とする。しかしながら、彼らのなかには、イスマーイール派 [3]アフマディ派 [4]も多数いる。主に、ハザラ人はハザラジャート [5]あるいはハザリスタンと呼ばれる高原地帯に住んでおり、アフガニスタン内では、3番目に大きな少数民族だ。

ハザラ人は、様々な統治者による数多くの民族浄化の企てに直面し、アフガニスタンでの集団殺戮から逃亡し、イランやパキスタンなどの周辺国に移住した。

ハザラ民族の多く(およそ70万人)は、パキスタンで最も大きな州バロチスタンのクエッタ [6]にバローチ人やパシュトン人と共に暮らしている。昨今ではおよそ 700人ものハザラの人々が残酷にも射殺され、何千もの人が生涯治らぬ障害を負わされた。

あるハザラ人社会活動家Mohammad Zia SultaniはブログHazara People [7]の中で、このように書いている。

ハザラ人は善良な人々だ。少数派のこの民族は誠実さをもって、真摯に今日のパキスタンに貢献してきた。それにもかかわらず、これまでの恩を仇で返されている。

過去10年間、ハザラ人たちは過激派テロリストの一派、Lashkar-e-Jhangvi(LeJ) [8]Sipah-e-Sahaba(SSP) [9]による宗教がらみの暴力に苦しめられている。これらは反シーア派のテロ組織で、つまるところ主に暴力的な手段を用いることにより、パキスタンを完全なスンニ派国家へと変えることを目指している。SSPとLeJは、クエッタのハザラ少数民族へ起こった事件のほとんどに加担したと公言している。

これらのテロ組織は、匿名で攻撃しているのではなく、ハザラ民族殺戮時の悲劇的な映像のビデオを公開したり、民族に恐怖心を持たせるための公開状 [10]を送っている。宗教活動を禁止されたテロ一派、LeJはハザラ民族に対し公開状を送りつけ、その中で「ハザラ人は殺す価値があるんだ。我々はパキスタンからこれらの汚れた人たちを一掃するだろう。」と語っている。昨今このような恐怖により、多くのハザラ人が国外逃亡している。

LeJは、マスツン地区におけるハザラ人大虐殺 [11]の恐ろしいビデオを公開している。このビデオでは、バスの乗客を無理やり降車させ、地面に座らせている。数秒後テロリストがカラシニコフ(旧・ソ連製の軽機関銃[訳注])で射撃した。この大殺戮の様子は生々しく録画されている。

パキスタン政府は、市民に安全を提供できていない。国会外のメディアには対応しているにも関わらず、バロチスタン州首相であるAslam Raisani [12]は、犠牲者の家族にトラックいっぱいのティッシュをおくってやろう!と語っている。2012年4月、クエッタの治安部隊は、テロリスト数人を逮捕するのがやっとだった。

ハザラ民主党の党首Abdul Khaliq Hazaraは「反政府分子の中には、テロリストを支援している者もいる」と信じている [13]

ハザラ人たちは、殺戮が増加するなか、2011年10月世界的抗議デモ [14]を計画した。彼らはヨーロッパ、アメリカ、オーストラリアなど様々な都市でデモを実施し、この ハザラ人に対する一連の殺戮に対して、パキスタン政府の真摯な対応を要求した。

しかしながら、クエッタではまた殺人が起きた。2012年3月、40人を超える無実のハザラ人が少なくとも十数箇所で攻撃を受け、銃殺された。

ハザラ民主党 [15]は、ハザラ人殺戮を非難し、二度目の世界的な抗議デモを計画した。この計画に沿って、何千人ものハザラ人が、ロンドン [16]ハンブルグ [17]キャンベラ [18]ニューヨーク [19]トロント [20]をはじめ世界中の様々な都市で抗議デモを実施した。

パキスタン クエッタにおける殺戮を非難するハザラ人 (著者撮影)

この抗議デモは、各国のパキスタン大使館前 [21]で行われ、パキスタン政府にハザラ人殺戮の対策を講じるよう要求した。また、この抗議デモは次々と起こるハザラ人への襲撃に対し、 世界の人々や、メディアの注意を引くことを目的としている。ハザラ人によるこの世界的デモの宣誓 [22]はウェブ上にて読むことができる。

社会活動家であり、ブロガーでもあるAziza Zafari [23]は、

パキスタン政府と国連は明らかにこの野蛮な行動と、少数派の無力な人々に向けた差別に対処する気もないようだ。人々は、銃やその他の攻撃的な手段によって脅かされるのではないか、と日々心配せず、生活をしたいと望んでいるだけなのに。

人権保護の擁護者であり、若者の自立支援に従事するユースワーカー(若者の自立支援に従事[訳注])でもあるAbdul Hekmathは、On Line Opinion [24]で下記のように語っている。

ハザラ民族の苦境は世界には見えていないのかもしれない。なぜなら、彼らはニュースのヘッドラインには掲載されないからだ。しかし、クエッタで繰り広げられているのは、パキスタンのみせかけの平和とは裏腹の大量虐殺だ。ハザラ人たちは世界に手を伸ばし、人権団体や、政府そして平和を愛する人々に、手遅れになる前に行動してほしい、と望んでいる。

人権活動家Asmatullah Yaariはこのように書いている [25]

どんな状況であれ、クエッタに住む無力なハザラの人々はモンゴロイド的な身体的特徴を持っているがゆえに、予断を許さない状況に置かれている。

ツイッター上で、#HazaraKilling, #HazaraGenocide , #Hazara, #Quetta ,#ShiaHazaraGenocideのハッシュタグで情報共有がなされている。

@Aushpaz (Haider Changezi) [26] : 800人が殺されて、逮捕されたのは0人!警察は、容疑者の一人も逮捕できていない。辺境警察やパキスタン軍統合情報局に対する確証のない供述が続いている。

@Sajjad_Changezi (Sajjad H. Changezi) [27] : 活動を禁じられた一派が自由を謳歌している一方、バローチ人の活動家は抗議活動を行うことさえできずにいる。一般庶民のハザラ人たちは旅行することも、店を経営することもできない。

@AhmadShuja [28]: クエッタの人々は、どうやって自分を守ればいいのかも、誰が敵なのかもわからない。つまり、怒り狂った銃を抱えた若者は誰にだって敵となりうるということだ。

校正:Kazumi Miyamori