追悼:仏報道写真家カミーユ・ルパージュ

Camille Lepage via her Tribute facebook page - Public Domain

カミーユ・ルパージュさん(Facebookの追悼ページより転載)


(リンク先表示の[fr]はフランス語、[ja]は日本語のページ、特に指定のない場合は英語のページです)

先週(訳注:原文公開日は2014年5月19日)、アフリカ大陸の紛争に巻き込まれ、また一人のジャーナリストが命を奪われた。26歳のフランス人報道写真家カミーユ・ルパージュさんは、中央アフリカ共和国(CAR)における非武装民間人への暴力を、命がけで世界へ伝えようとする最後の記者だった。

5月15日、 中央アフリカの都市ブワル近郊の村で、平和維持部隊のフランス兵がルパージュさんの遺体を発見した。遺体が見つかったのは、アンチ・バラカというキリスト教系民兵が運転する車の中だった。

2012年にイスラム系勢力のセレカ[ja]とアンチ・バラカが土地の支配を巡る争いを始めてから、中央アフリカ共和国は続く内戦で疲弊している。この紛争で犠牲になった欧米人ジャーナリストは、ルパージュさんが初めてである。

ルパージュさんはアフリカの報道写真を専門としていた。中でも、エジプト、南スーダン、中央アフリカなどで活動を展開した。そして、主流メディアが取り上げない問題を取材することにやりがいを感じる、と生前に語っていた。また、「記事にしてもお金にならないというだけの理由で、ひどい目にあった人たちがあっさりと黙殺されるなんて、私は納得がいかないんです」とも述べていた

ルパージュさんが殺害されたニュースを受け、彼女の仲間の中でも報道関係者や、人権・アフリカ問題に関心を持つ団体のメンバーは特に感情を高ぶらせた。

ルパージュさんは写真に情熱を傾けていた。世界の紛争地域で、非武装の民間人への襲撃を記録しようと奮闘していた。南スーダンのジョングレイ州で撮影されたこの写真は、昨年ヒューマン・ライツ・ウォッチの報告書の表紙に採用された。詳しい内容はこちら

ライターのギャノン・バージェット氏はpetapixel.com(訳注:カメラ・写真に関するブログサイト)で、胸を打つ追悼の言葉を記した。その中で、ルパージュさんのウェブサイトについて、「素晴らしい写真の世界を紹介する優れたブログである」と評している。

Heart-breaking news came out of Bangui, Central African Republic today. It has been confirmed that 26-year-old French photojournalist Camille Lepage, who we had the honor of interviewing just six months ago, has been killed while covering the ongoing crisis there

[…] 

She had a passion for shedding light on the world’s ignored conflicts, and her compassion and dedication for her craft and her subject alike seem to shine through with every snap of the shutter. The French Presidency has released a statement saying that, “All means necessary will be used to shed light on to the circumstances of this murder and to find her killers.”

今日、中央アフリカ共和国の首都バンギから悲報が届いた。現地で続いている紛争を取材中だった、26歳のフランス人報道写真家カミーユ・ルパージュさんの殺害が確認されたという。彼女にはほんの半年前にインタビューをさせてもらったばかりだ。

[…] 

ルパージュさんは、世界が目を向けない紛争に光を当てようと情熱を燃やしていた。彼女の優しさも、写真に対するひたむきさも、取材テーマに対する熱意もすべて、スナップ写真の一枚一枚から伝わってくるようだ。フランス大統領は「必要ならあらゆる手段を用いて、この凶悪な犯行を調べ上げ、犯人を捜し出す」と声明を発表した。

バージェット氏の記事に対し、読者は様々な反応を見せた。tigerと名乗る人物は次のようなコメントを書いた。

The conflict in Central Africa is very intense and dangerous and what you would call a red zone. It is actually one of the more dangerous areas in Africa. A very dangerous job I doubt many photo journalists would want to take. It was very courageous of her and not only that she was with one of the militia forces. It is very possible that while she was riding around with them, they were flanked by the opposing militia force and taken out by surprise. Very sad for such a young person with a lot of potential.

中央アフリカの紛争は、かなり激しく危険な状況であり、いわゆるレッドゾーン(危険地帯)だ。事実アフリカ大陸の中でも、この国は非常に危険な地域に分類されている。こんな物騒な仕事をやろうという報道写真家がたくさんいるとは思えない。ルパージュさんはとても勇敢だった。そればかりか、民兵の一員として活動していた。民兵たちと車で行動を共にしていたときに、敵に側面から襲われ、突然殺された可能性が高い。このような未来ある若者が、非常に残念なことだ。

メキシコで記者をしている個人的な経験から、Ridgecityは同僚の死にどれほど衝撃を受けたかをつづった。

Tragic loss, even not knowing her, seeing a fellow photographer have a tragic death is horrible. There are trendy magazines like Roling [sic] Stone or Vice Magazine that like to cover these human crisis and offer young people jobs like this, and don't even consider their security. Sadly, this happens all the time when photographers think they are untouchable with a extremely dangerous “I'm the press” mentality.

I live in Mexico and this place is the worst ever for journalists and even regular photographers. You ALWAYS have to put your safety first and don't think twice about leaving any place where someone has a weapon. They always target the cameras first. That's something they don't teach you in college.

彼女とは知り合いではないけれど、同僚の写真家の悲惨な死を目の当たりにしているので、この痛ましい出来事には身の毛もよだつ思いだ。『ローリングストーン』や『ヴァイスマガジン』など流行の雑誌は、こうした人間の危機を記事にしたがり、若者たちにその仕事を提供しておきながら、彼らの安全については我関せずだ。悲しいかな、写真家が「記者魂」という危険極まりないものにとらわれて、自分は被害にあわないと思いこんでいるときに、こういうことは起こりがちだ。

私が住んでいるメキシコは、ジャーナリストにとって最も危険な場所であり、たとえ普通の写真家でもそれは同じだ。常に身の安全を最優先し、誰かが武器を持っているとなったら、ぐずぐずしてないでとにかくその場から逃げろ。たいてい、まずカメラが狙われる。これが大学では教えてくれない知恵ってやつだ。

上記のインタビューではルパージュさんが、アフリカ問題に関わるようになったいきさつをグレゴリー・エディ・ジョーンズ氏に語っている。

Since I was very little, I’ve always wanted to go and live in a place where no one else wants to go, and cover in-depth conflict related stories. I followed thoroughly the independence process of South Sudan and was shocked by the little coverage it got… plus all the pessimism around it really annoyed me.

Then, while doing research, I discovered the conflict in the Nuba Mountains. I became even more outraged by the fact that, except from a few media, no one talked about it. It became an obvious choice, I had to go and report from there. Yet, as a first experience in Africa, it seemed like a dangerous one. So I was trying to find alternatives.

I thought about moving to Uganda and going back and forth between the two countries. Then I realized I could probably get a job in a local paper and start within a structure instead of throwing myself out there with no contact, no portfolio and above all very little experience. So that’s what I did.

とても幼いころ、他の誰も行きたがらないようなところへ行って暮らしてみたい、そしてニュースでやっている争いごとを詳しく取材したい、といつも思っていました。南スーダンが独立するまでの過程を徹底的に追ってきて、そのほとんどが報道されないことにショックを受けました……しかも、取りざたされるのは悲観論ばかりで、ほんとうに腹が立ちました。

さらに取材を続けるうちに、私はヌバ山地の内戦を知りました。そして、ほんの少数をのぞき、どのメディアもこの内戦を報道していないという事実を知って、さらに激しい怒りを覚えました。なすべきことは一つ、私が現地へ行って取材をしなければ。でも、初めてアフリカへ行く者にとって、これはかなり危険な仕事に思えました。そこで私は別の方法を探すことにしました。

私はウガンダへ移動して、そこからスーダンへ取材に通おうと考えました。そして、コネも経歴もなく、何よりまったく経験のない状態で飛び出すのではなく、地元紙で職を得て、組織に属して活動を始めることも可能なのでは、と思いついたのです。こうして私は行動に移りました。

フランスの日刊紙フィガロを読んだジャック・ヴィシー氏[fr]は、ルパージュさんが残したものについて次のように記した。

On ne peut qu'être respectueux de sa volonté et admiratif de son courage. Elle est partie jeune mais son sens de l'engagement et de la vérité des faits l'a déjà inscrite comme la digne héritière de la lignée des Capa, McCullin, et autres Schoendoerffer.

ただ彼女の意思を尊び、その勇気に畏敬の念を抱くばかりである。ルパージュさんはあまりにも早くこの世を去ってしまったが、事実や真実に対するその献身的な精神によって、彼女はすでに、キャパやマッカラン、シェンデルフェールのような偉大なジャーナリストの後継者となるにふさわしい人物だ。

中央アフリカの取材前は、南スーダンで仕事をしていた。ルパージュさんは様々なテーマの取材をしたが、どれも印象深い。主流メディアやNGO、人道支援団体などの仕事の一端は、彼女のブログで見ることができる。

  • 南スーダン:「You will forget me(きっとあなたは忘れてしまう)」写真24枚
  • 南スーダン:「Vanishing youth(失われゆく若者たち)」写真17枚
  • 南スーダン:「We call it fashion(我らがファッション)」写真26枚
  • 中央アフリカ:「On est ensemble(ともに生きよう)」写真17枚

26歳でルパージュさんはすでにたくさんの記事を発表していた。掲載メディアは次の通り。ニューヨーク・タイムズ、タイム誌、ル・モンド、ヴァイス、サンデー・タイムズ、ガーディア ン、BBC、ウォール・ストリート・ジャーナル、ワシントン・ポスト、アムネスティ・プレス、ロサンゼルス・タイムズ、アルジャジーラ、リベラシオン、ル・パリジャン・マガジン、ル・パリジャン、ル・ ヌーヴェル・オプセルヴァトゥール、ジュンヌ・アフリック、ラ・クロワ、インテルナツィオナーレ、DVAfoto、ル・ジュルナル・ド・ラ・フォトグラフィ、など。

次の団体にも掲載されていた。ヒューマン・ライツ・ウォッチ、国境なき医師団、赤十字国際委員会(ICRC)、アムネスティ・インターナショナル、マーシー・コー、ハンディキャップ・インターナショナル、国連世界食糧計画、インターニュース、クラウン・エイジェンツ、ソリダリテ。

ルパージュさんが最後にFacebookに投稿したメッセージは、中央アフリカでイスラム教徒が直面している危険についてのリポートだった。

Muslim men take a taxi from the IDP camp in Bangui after the evening prayer to go to the bus station and take a bus to Cameroon on the next day. They have no other choice but to leave at dark so the local population won't see them and hopefully won't attack them. 
In Bangui, attacks on Muslims take place everyday in the last 3 areas where Muslim remain. The attackers want them to leave or die and will do everything they can so no Muslim remain in the country.

イスラム教徒は夕べの祈りが終わると、タクシーでバンギの国内避難民(IDP)キャンプからバス停まで行き、今度はバスに乗って翌日カメルーンに到着する。地元住民と顔を合わさず、できる限り危害を加えられないようにするには、夕暮れに逃げる以外選ぶ道はない。
バンギでは、イスラム教徒が留まっている残る3つの地域で、毎日彼らに対する攻撃が行われている。襲撃者の目的はイスラム教徒を追い払うか殺すことであり、この国からイスラム教徒がいなくなるまでどんなことでもする構えだ。

ありがとう、カミーユ。

校正:Maki Ikawa

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