シリア大統領選挙とブラックジョーク

 この記事は先にSyria Untoldに掲載されたものである。

来たる6月3日(原文掲載日は5月25日)のシリアの次期大統領選挙にバッシャール・アル=アサドが立候補することは何の驚きでもない。破壊や殺人、恣意的な人事配置、拷問といったようなことが行われるシリアの政治は終わりのない暗い状況を世界に晒し、そうした中で行われる今回の選挙はシリア情勢に新たに加わる暗いエピソードの一つに過ぎない。

Cartoon on the Syrian elections, by Saad Hajo. Source: the artist's facebook page.

Saad Hajoによるシリアの選挙を描いた風刺画。画家のFacebookページより引用。

パフォーマンスとしての選挙は、繰り返しシリアの芸術家のテーマになり作品になっている。選挙の様子と登場人物たちが描かれた気味の悪い茶番は、三人の最終候補者で始まる。「アサド以外いない」の記事の著者であるMaher Abdul-Hafiz Hajjar氏と、前大臣で選挙の有力候補と思われているHassan al-Nuri氏 、それからもちろんアサド氏である。

政権のコントロール下にある通りは「sawa」(アラビア語で「一緒に」の意味)のスローガンのもとキャンペーンの一環で、アサド氏のプロモーション用の写真、ポスター、そして横断幕で埋め尽くされている。他二人の候補者の写真はあまり見かけないが、政権支持者はアサド氏以外が大統領になることをおそれ、ハジャル氏とアル=ネル氏のポスターを破壊している。

そして政権が選挙ポスターを通りに貼ると、自由主義の人たちは他の自由主義者の選挙に対する嘲りに呼応して、ウェブスペースやオンラインプラットフォームに、次々とメッセージや写真、ビデオ、バナーを投稿する。「血の選挙」「声を落として」「一緒に彼を埋めよう」が現実離れしたアサド政権に対するスローガンとして生まれた。

These Are My Achievements, so Elect Me, by Abu al-Noor. Source: the artist's facebook page.

これが私が達成したことだ。だから私に投票しよう。Abu al-Noor作。アーティストのFacebookページより引用。

「Sawa」というスローガン自体はすぐさまインターネット上のソーシャルプラットフォームで裏目にでた。ユーザーたちは至る所で多くのアサド政権のシリア国民に対する抑圧と国を破壊したことを並べて置いた。「一緒に殺す」「一緒に壊す」は政権支持者と選挙という茶番に関わる人に向けられたものである。

ジャーナリストのGeorge Kadr氏はFacebookにコメントを掲載した。

An official TV channel interviewed Maher Abdul-Hafiz Hajjar yesterday, and asked him about his life, including his income and assets, so that the audience knows everything about the candidate. I am curious to know who is going to interview Bashar al-Assad and ask him about his income and assets…

公式テレビチャンネルは昨日マハール・アブダル=ハフェズ・ハジャル氏にインタビューをした。彼の生活について聞き、収入や資産までも聞いた。誰かアサド氏にインタビューをし、収入や資産について尋ねてくれるのだろうか…

シリア系パレスチナ人の画家、Yasser Abu HamedはSyria Untoldのインタビューで、多くの活動家はアサド氏ではなく候補者の正当性を追求するという間違いを犯していると話している。

“You can hear activists propose alternative opposition candidates, as if the problem lies in the nature of the rivals. This only helps legitimize Assad and his illegitimate system.”

“活動家はあたかも問題はライバル候補者の性質にあるかのように、代わりの対抗候補者を提案している。これがアサド自身と不当な政権を正当化している。”

The Syrian Elections, by Yasser Abu Hamed. Source:  the artist's facebook page.

Yasser Abu Hamedによるシリアの選挙。アーティストのFacebookページより引用。

Abu Hamed の選挙に対する考え方とアサド政権の正統性の欠如は、彼の多くの作品に反映され、SyriaUntoldに特集された。独裁者が鼻先を投票箱に突っ込んでいるものや、血の海に囲まれているもの、ミリタリーブーツの上で銃を持っているもの、「Sawa(一緒に)」と書かれた血で染まった横断幕の横で笑っているものなど、彼の絵や風刺画が公開されインターネットで広まった。

この現実離れした状況で、大統領選挙という茶番はシリアのブラックユーモアを別次元に押し上げた。しかし、本当に皮肉なのは自由な選挙権が何百万人という人を街頭に駆り立て、そして多くの人が命を落とす原因になった理由の一つだということだ。アサド政権はシリアの人々の夢を悪い冗談に変え、自由や正義への憧れをあざ笑い続けているのである。

The Syrian Elections, by Kamiran Shamdin. Source: the artist's facebook page.

Kamiran Shamdinによるシリアの選挙。アーティストのFacebookページより引用。

 この記事は先にSyria Untoldに掲載されたものである。

校正:Jiro Tominaga

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