クリー語で楽しむ「赤ずきんちゃん」

Scan of a page of the Cree translation of Pilgrim’s Progress published in 1886. Courtesy - Kevin Brousseau.

「天路歴程」のクリー語訳のスキャン(1886年出版) ケビン・ブロッソ氏の厚意により掲載

物語の読み聞かせは、世界のどこの国においても次世代に文化を伝えて行くうえで、重要な役割を担っている。物語の読み聞かせはいつの時代も世界中で行われている。それは様々な文化圏や言語圏の物語のメインテーマやキャラクターがどこか似ているという点にも現れている。翻訳のおかげで、世界のある所で語り継がれている物語が、遠く離れた家庭にまで浸透していくことができるようになる。

ブロガーのケビン・ブロッソ氏は、ソーシャルメディア等を活用しクリー語の認知度を高めようと積極的に行動している。同氏の指摘によると、クリー語の民話は、英語に翻訳されてきたが、その逆に世界でよく知られた物語でも、クリー語では読むことができなかった。同氏はライジングボイスとのインタビューで次のように語っている。

After translating the Little Red Riding Hood and Hansel and Gretel, I realized that elderly monolingual speakers of Cree had never heard of these stories! As I read my stories to my elderly grandmother, I was struck by how much she enjoyed them, but also how closely these stories resembled Cree stories once they were read aloud in Cree.

「赤ずきんちゃん」と「ヘンゼルとグレーテル」を翻訳してみて、クリー語だけを使っている高齢者は、この二つの物語を一度も聞いたことがないことに私は気づいた。この物語を、高齢の祖母に読んであげたところ、彼女は大変喜んでくれたのでうれしかった。また、クリー語で音読してみてこの物語は、クリー語の物語と酷似していることに驚いた。

こうした活動がきっかけで、ブロッソ氏には、自分のブログ「クリー語」を通して、広く親しまれている物語をより多くの人に読んでもらいたいという気持ちが芽生えた。これまで、同氏は「三びきのくま」や「三匹の子豚」そして「 イソップ物語」の数編など、有名な童話を南東クリー語およびムースクリー語の方言に翻訳した。

Screenshot of the first part of Little Red Riding Hood translated into Southern East Cree by Kevin Brousseau

ケビン・ブロッソ氏による「赤ずきんちゃん」の南東クリー語訳、最初のページのスクリーンショット

クリー語はカナダで最も多く用いられている先住民族の言語であり、この言語には多種の方言がある。また、クリー語はカナダ・ノースウエスト準州の公用語の一つとされ、5つの州の少数言語として認められている。カナダの2006年の国勢調査によると、すべてのクリー語方言を含めるとクリー語使用者は、おおよそ12万人とされている。

ブロッソ氏は、クリー語でエッセイを書き自分のブログに掲載している。また、他言語からクリー語への翻訳や逆にクリー語から他言語への翻訳も掲載している。さらに、クリー語文法、クリー語方言、クリー語辞書、および多種のクリー語正書法に関する彼の研究成果も掲載している。また、同氏はこのブログを主催するほか、ケベック州クリー・ネーション・ガバメントのクリー語調整官として働いている。

クリー語がインターネットに登場する回数は、過去数年の間に著しく増加したと、ブロッソ氏は認識しているが、クリー語による市民メディアは「まだ始まったばかりだ」と言っている。そして、彼は自分のブログ以外に、クリー語の知名度を上げようと努力している様々なインターネット上のプロジェクトを紹介している。例えば、「クリー・リテラシー」だが、これはクリー語およびその文化的教養を身に着けさせようとするネットワークである。âpihtawikosisânと呼ばれるブログもあるが、これはモントリオール在住の平原クリー語を用いるメチス(訳注:先住民とヨーロッパ系の人々の子孫)女性によって書かれている。 「リトル・クリー・ブック」は、平原クリー語方言の教科書を発行し、無償で配布しようとするオンラインのプロジェクトである。このプロジェクトが提供する図書はクリエイティブ・コモンズ・ライセンスのもとで利用可能である。

ソーシャルメディアに目を向けると、フェイスブック上では、クリー語に関する情報を共有したり、クリー語の基本語句を教えたり、また、互いにクリー語でコミュニケーションを図る場を提供したりするなど、いくつかのグループが活動している。ツイッター上では、#speakcree #nêhiyawêtânといったハッシュタグが時々見られる。ブロッソ氏は @_Kepin_というアカウントのツイートで、クリー語を共有したい人たちに向けて励ましの言葉を送っている。

今日も、互いの会話はクリー語で。子供たちにもクリー語で話しかけよう。クリー語を消滅させないよう頑張ろう。

クリー語諸方言のコンテンツを見る機会が増えてきたとはいえ、クリー語話者社会にはまだ課題が残っており、特に、インターネット上でクリー語を表示する際に問題となっている。別けてもカナダ先住民文字とも呼ばれるクリー語独特の表記法については解決が急がれる。ブロッソ氏は下記のように言っている。

There are whole sets of characters that simply do not display properly if the website does not support the appropriate fonts. That is definitely a problem for bloggers such as myself. Although the proper fonts are selected as I draft my posts, another person’s computer may lack the fonts and as a result my blog will simply not display properly on his or her computer. This is a nuisance that often keeps people from even attempting to write in Cree online.

ウェブサイトに適切なフォントがそろっていなければ、ウェブ上でクリー語の文を正確に表示するのは簡単ではない。私のようなブロガーにとっては、全く困った問題である。私がウェブ上に投稿する際に適切なフォントを設定しても、受け手側に適切なフォントがそろっていなければ、受け手側にはいかにしても私の文は正確に表示されない。こういったことから、クリー語でインターネット上に書き込みをしようとする意欲がしばしばそがれてしまう。

クリー語で読み書きする人口が相対的に少ないということは、クリー語が抱える主要課題の一つとされる。しかし、インターネット上にクリー語に関するコンテンツが多くみられるようになっていることは、クリー語でコミュニケーションを図ろうとしている人たちにとって、励みとなっている。

I love seeing things like this in my schools #nēhiyawe #SpeakCree

A photo posted by Skye (@ndnspeechmom) on

ブロッソ氏が昨年から始めたブログに対する反応は概して好意的である。このブログは、もともとはクリー語の書き方に焦点を当てたものである。つまり、他のクリー語のウェブサイトに比して、ブロッソ氏のサイトはクリー語を論ずるよりもクリー語で書くことに力点を置いている。その結果、クリー語を理解できるインターネットユーザーが少ないため、このクリー語のウェブサイトへの参加者は、なお比較的少ない状況となっている。しかし、彼は、オーディオクリップを用いたマルチメディアコンテンツを、この計画に追加していくつもりだ。彼は、自分のブログに掲載した翻訳が、教育目的のために使われている例を示している。

A lady from a neighbouring community was pretty excited about my Cree translation of the 3 Little Pigs and asked if she could use it in her community as a teaching resource. My hope is that more people take an interest in learning how to read our language – in the meantime, my blog will keep growing.

隣接の地域の女性が、私のクリー語訳による「三匹の子豚」に大変興味を示し、彼女の地域で教材として使用してよいか問い合わせてきた。多くの人がクリー語の読み方に興味を持ち、やがて私のブログがさらに発展していくことを望んでいる。

校正:Jiro Tominaga

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