イラン制裁:誰が市民の医薬品を盗んだのか?

Peyman Majidzadehによるこの記事は、Arseh Sevomにも掲載されたもの。

前例のない制裁の影響を直に受けた結果、イランでは医薬品が不足し600万人の病人の命が危険に晒されている。制裁による打撃を受けるイランに対し、欧州連合は2012年10月15日、追加制裁を実施することを会合で決定した。イランへの追加制裁は外交と圧力という二重戦略の一環として施されており、これによりイスラム共和国からの天然ガスの輸入が禁止となった。イランの孤立化を更に進めるこの戦略が、イランの一般市民、とりわけ病人に破壊的な影響を及ぼすことは国際社会において周知のこととなっている。

ワシントン・ポスト紙は、以下のように記事で現状を伝えている。

「専門家によると、(制裁の)影響を真っ向から受けているのは、ガン患者や、血友病・多発性硬化症・サラセミアなどの難病患者や、臓器移植や腎臓透析を受ける患者などだ。これらの患者は、医療の提供が遅れるのを待つことができない。」

Foundation for Special DiseasesのトップであるFatemeh Hashemiは、医薬品輸入に影響する銀行取引制限を受け、イランの600万人の患者がおかれた状況について、懸念の意を表している。Hashemiの主張によれば、医薬品不足の影響が最も現れているのはガン患者や多発性硬化症患者だが、サラセミア患者や透析患者も困難な状況に置かれているという。国連事務総長の潘基文に宛てた手紙の中で、Hashemiは「制裁はそもそも政治的なものであるが、結果的にイランの病人へ許しがたいほどの困難を強いている」点を主張し、制裁措置の解除を求めた。制裁は銀行取引を深刻に悪化させ、物価の急騰を招き、中には「不足」に苦しむ業界さえ出している。Hashemi は、制裁がイランへの医薬品・医療用品販売に対して特別に実施されているわけではないにもかかわらず、こうした問題が起きている点も強調した。

Where is my medicine?

この状況は、制裁が望んだ結果だという人もいる。こうした人々は制裁をイラン政府に核に関する協議に参加させるためのものと考えており、これはイラン社会が変化するために払うべき避けられない代償だと思っている。しかしながら、こうした代償のすべてが報われなかった場合はどうなるのかという疑問が残るのも確かだ。イランで亡くなったり困難を強いられる一般市民の責任は誰がとるのか。国際社会、それともイラン政府の責任なのだろうか。

Hesam は自身のブログ[fa] でこうした問題に関するメディア報道をまとめており、その中で医薬品不足に関するサラセミア患者のコメントを引用している。

「彼らはイラン市民がどうなってもいいと思っているんだ。」

多発性硬化症患者のために書かれたブログの作者であるMS Irani[fa]は、入手困難な50種類の医薬品のリストをブログに掲載し、このリストが日に日に長くなっていると述べた。MS Iraniの主張によると、経済制裁の結果イランは深刻な医薬品危機に陥っているという。今のところ医薬品危機は特定の病気の疾患者という、イラン国内の一部の市民の間で起きているに過ぎないが、この危機が市民全体にまで波及するのは時間の問題だという。MS Iraniは、問題は国内の医薬品製造会社への原材料の供給が滞っている点だと考え、また、一部の医薬品に見られる在庫不足は、医薬品自体に制裁が加えられたからではなく、金融取引に支障が出た為に起きているからだと改めて説明している。MS Iraniは、不足解消のため輸入された中国やインド製の医薬品や原材料が引き起こす副作用について注意を促した。副作用や医薬品不足だけでなく、30~40%の物価急騰も医薬品危機に拍車をかけているという背景も付け加えている。

Nei C[fa] は、以下のようにコメントしている。

「私の家族も制裁の影響を受けるようになった。祖母が少し前に手術を受けた際、麻酔薬も制裁の対象となっているのか、看護婦は麻酔薬が不足しているという理由で麻酔なしで祖母に抜糸を施した。あまりの痛さに祖母は失神してしまったよ…私の叔母は多発性硬化症を患っているが、今では以前よりも更に高額を支払い医薬品を手に入れなければならないだけでなく、医薬品不足にも悩まなくてはならなくなった。多発性硬化症患者にとって、必要な薬が手に入るのだろうかという不安は、非常に深刻な精神的苦痛となっているのだ。」

Ahmad は、自身のブログ[fa]で血友病患者について語るとともに、世界保健機関(WHO)へ宛てた手紙を公開している。その手紙の中でAhmad は、必要な医薬品を入手するために血友病患者がどれほどの困難を強いられているかについて訴えている。

Marziehは、自身のブログの記事「制裁は戦争を上品に言い換えているだけ」[fa]で以下のように述べている。

「私たちにとって制裁は物価の上昇を意味するだけかもしれないが、制裁はまた、多くの人々の命をも奪っているのだ。戦争や武力衝突で死者が出た場合には事件は問題視され、ニュースになり、世界から目が向けられる。しかしながら、現時点で何人の人が制裁の影響で亡くなったか、つまり何人が殺され、命を失ったかについて明らかになることはない。戦争で人が殺されれば表沙汰になるが、制裁下では人は静かに殺される。それはまるで、実際には起きている戦争の存在を制裁が見えなくしてしまうかのようだ。特殊な病気に苦しむ患者は問題を抱えたまま世界からないがしろにされる。私たちの眼にはそう映らないかもしれないが、そうした患者の立場から見れば制裁は戦争よりもっと残酷に映るかもしれない。患者が抱える問題は社会全体の問題ではなく、個人の問題として考えられているため、彼らの苦しみが、ニュースや、調査、人権宣言において配慮されることはない。」

医薬品のサムネイルは、アメリカ国立衛生研究所のパブリックドメイン提供。

校正:Rie Ihara

コメントする

Authors, please ログイン »

コメントのシェア・ガイドライン

  • Twitterやfacebookなどにログインし、アイコンを押して投稿すると、コメントをシェアできます. コメントはすべて管理者が内容の確認を行います. 同じコメントを複数回投稿すると、スパムと認識されることがあります.
  • 他の方には敬意を持って接してください。. 差別発言、猥褻用語、個人攻撃を含んだコメントは投稿できません。.