英紙は日本の性事情をどう伝えたか

女子会 at kasahara

ガーディアンに掲載された記事にはこうある。「結婚や深い関係になるのを嫌う傾向や、デジタルテクノロジーに夢中になる人が増えている現象は日本に限ったことではない。しかし子づくりにシャイな日本人の若者を把握しそこねた政府は、見事に独身が過ごしやすい社会をつくってしまった」 (Image: 女子会 at kasahara, by Flickr user sakaki0214. CC BY-NC-ND 2.0)

なぜ日本の若者はセックスしなくなったのか?」 という見出しの記事がイギリスの新聞ガーディアンのサイトに掲載され、すぐに7万Facebookシェアを超え世界的に話題となった。この記事はすぐさまTIME誌やワシントンポスト、Slateなどのサイトでも紹介され、各メディアで 「性に無関心な日本が世界経済に危機をもたらす」「日本で今一番アツいセックスのトレンドはセックスをしないことらしい」「セックスをあきらめる日本の若者」といった驚きの見出しが並んだ。

同記事は、セックスカウンセラーで元女王様の青山愛さんの逸話から始まり、日本の若者にはびこっているとされる「セックスしない症候群」について探るもの。青山さんの話が情報源の鍵となり、そのほか何人かの日本の若い男女へのインタビュー、あちこちから拾ってきたアンケートや調査の統計を元に展開されている。

日本の少子化傾向を浮き彫りにした同記事に、2chのユーザーは「しなくなったどころか、最初からセックスできてない」と、うなづきのコメントを残している。

その一方で、まるで全員がそうであるかのように一般化し結論づける記事の論調は、日本の社会の複雑さを認識せずにセンセーショナル取りあげているだけではないか、と問題視する声もある。

そもそもガーディアンに掲載された同記事は、Abigail Haworthさんが、2013年の 7月掲載のマリ・クレールのサイト に執筆したもの。当時の記事の見出しは「ノー・セックス・イン・ザ・シティ」という刺激のないタイトルだった。アルジャジーラのThe Streamという番組でこのことに触れられるまで、記事はたったFacebookシェア10件しかないという寂しいものだった。

マリ・クレールとガーディアンの両方の記事で発言が掲載されている文化人類学者でフェミニストの 山口智美さんによると、 取材依頼を受けたのは今年の春ごろのことだったという。30分程度の電話でのインタビューを受けた山口さんは「私はマリークレールのための記事だと理解しており、マリークレールはファクトチェッカーから連絡がいき、引用もチェックさせてくれるとそのときに説明された」と、 ツイッターで連投 している。

山口さんはマリ・クレールの取材が済んで「それで終わったとわたしは思っていた」とのこと。

ところが10月20日になってガーディアンの記事について「メディアの人から連絡がきて初めてそんなものがでていたと知った」と話し、「最初はマリークレール記事の再掲かと勘違い」していたが記事を読むと、「私の引用部分は『え、こんなこと言ったっけ?』みたいな状態」になっていたという。

ネット上で記事が話題になると、日本人や日本在住のツイッターユーザーたちから記者の見解に疑問を抱く声が目立つようになる。果たして記者はデータを的確に読み取り、日本の社会規範や文化を理解しているのだろうか。

「目からうろこのデータもあれば、誤った解釈から誤って仕立てられたようなデータ分析もある。」

そう話すのはゲームやエンターテイメント情報を紹介するKotaku.comの編集者で大阪在住のBrian Ashcraftさんだ。彼はKotakuに、反証記事 「Wrong about Japan and Sex(日本とセックスについて間違っている点)」を掲載し、Haworthさんの誤認した箇所について説明している。

Ashcraftさんはこう指摘する。
「あの記事には『ある別の調査によると30歳以下の若者の3分の1は一度も交際経験がない、と回答した』と書かれているけど、残りの3分の2は交際経験がある、ということだよね?日本語で、”交際”と”一夜限りの関係”と”セックス”はそれぞれ別モノ扱いのはず。それから、同じ調査によると、「10組に1組が妊娠で結婚を決断」したとある。それでも日本人はセックスしていない、とするといったいどういう話なのか?」

井上エイドさんは、ガーディアンに対して「失態だ!(#fail)」とツイッターでコメントし、記事の中で「驚くべきことに女性の約9割の回答者が独身でいたい、と答えた」と引用している調査について、実際の調査ではその逆の「9割の女性の回答者がいつか結婚しようというつもりがある」と答えていると指摘。

「スノッブで結構。日本について報道するなら翻訳される前の純正の日本語で情報源を理解すべきだろう」とツイッター上で問いかけた

さらに井上さんは、ガーディアンの記事文中の「結婚は女の墓場」という「古いことわざ」は無い、と指摘。また、記者がセックスカウンセラー青山愛さんの証言に頼りすぎであることなど、数点にわたって異議を唱えた。

記事への批判は個別の真偽に限らない。@hunyokiさんは「『結婚』と『セックス』と『少子化』は相関するけど全く別の問題なのでそれぞれ個別に解決されるべきだと思う」とツイッターでつぶやいた

なんでもごっちゃにしてしまっていると感じたのは@hunyokiさんだけではないようだ。

山口智美さんは、「今回のガーディアン記事発端の一連の英語メディア媒体の記事、セックスレス、婚姻、少子化のいったいどれを結局問題だとしているのか混乱が見られると思う。」とコメント
また、少子化についてとりあげているにもかかわらず、記者が都市部の状況ばかりフォーカスしてしまって、「最もその問題が深刻な地方への取材は今のところ皆無っぽい。」と懸念を示した

アンケート結果にバイアス[en]がかかっていることへの配慮が必要かもしれない。ツイッターユーザーの@Ucatyは、「日本人は勉強量やセックスへの興味を過少申告するってのもあるだろ…『昨日勉強やってねー』ってテスト前に言い合うあの感じね。」とコメントした。

「さすがイギリスの新聞!『ドラック』だの『セックス』だののネタを使わないと記事が書けないのかねぇ?」とつぶやいたツイッターユーザーの@moguraさん。「さすが」、というのは、イギリスのメディアが好色であることや、リンクベイトを狙ったの明らかなSEO対策を記事タイトルに入れる手法を指しているのだろう。

クイア理論研究者の清水晶子さんは一連の”日本人はセックスしないらしいよ”騒動について、「英語サイトでも続々と『いや、セックスしてるよ?』的な反論が出ていて、それは事実指摘として必要である反面で、そもそもしてなきゃダメなんですか?そこ正当化しなくちゃダメなんですか?的な気分が増してくる」と限定された性の議論に落胆のコメントを吐いた。

Keiko Tanakaはグローバルボイスで編集者として日本について英語記事を執筆しています。寄稿して情報発信者になるための詳細はこちら

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