パキスタン空港銃撃事件のパニックを沈静化させた、航空局ツイッターの「中の人」とは?

空港警備隊の訓練施設が3~4人の人物に発砲された後、大規模な捜索活動をする治安部隊。撮影ppiimages、著作権Demotix(2014年6月10日)

空港警備隊の訓練施設が3~4人の人物に発砲された後、大規模な捜索活動をする治安部隊。撮影ppiimages、著作権Demotix(2014年6月10日)

カラチ・ジンナー国際空港をタリバンが攻撃し、36人の死者を出すことになった日(訳注:2014年6月8日)から2日後、このパキスタン最大の空港近くで「またもや発砲事件が起こった」と報じられた。パキスタンのソーシャルメディア上は大騒ぎになり、この国防上の緊張に満ちた街で、住民はまたたく間にパニックに陥った。

しかし、パキスタン最上位の航空交通局の非公式ツイッターアカウントを運営している25歳のボランティア、ジャワド・ナジール(Jawad Nazir)は、皆を落ち着かせようと努めた。

筆者とツイッターでチャットする中で、彼はこう言っている。「こんな時には肩の力を抜いて、物事全体を批判的にとらえてみることで、冷静さをとりもどせることもあると思うんです」

空港でまたもや発砲が」の件について、憶測的なツイートが広がり始め、パキスタンの活気ありすぎるTVニュース番組でも憶測情報を流し始めた時のことだった。ジャワドは大学生で、ボランティアで野外教育トレーナーもしていて、さらにラワルピンディー市に拠点を置く社会事業家でもある。彼は「パキスタン民間航空局」(@AirportPakistan)の非公式アカウントで、次のようにツイートした。

ジンナー空港は安全です。攻撃されているのは空港警備隊の訓練施設です。随時更新いたしますので、落ち着いてお待ちください。

その後同じアカウントでこう報じた。

ジンナー国際空港は、運用を一時停止しております。

報道によると、3~4人の人物が空港警備隊の訓練施設に発砲した後逃走したという。カラチの空港では6月9日早朝、侵入した武装勢力と治安部隊との間で6時間にわたる戦闘があったが、訓練施設はその空港から数キロ離れたところにある。その戦闘後、民間航空局 (CAA) がやっと飛行制限を解除してから24時間と経たないうちに、今回の発砲があった。

銃撃の報道がされてから2~3時間もたたないうち、パキスタンの軍報道官長がこうツイートした。

カラチ空港最新情報:3~4人のテロリストが空港警備隊基地近くで発砲し、逃走した。フェンスは破られず、侵入もされていない。犯人は追跡中で、事態は収拾済み

1時間ほどで状況は落ち着いたように見え、その後タリバンが発砲への関与を認めた。しかし、パキスタンのソーシャルメディア上では、今回の空港襲撃についての流言飛語が続き、当局が一時的な運航停止を決定し空港近辺の道路を封鎖した後も、それは消えなかった。

カラチ空港に向かう道路は全て封鎖されています。(@JaagAlerts、ニュースTV局の警報より)

「航空機運航停止」の告知から40分もたたないうち、@AirportPakistanはツイートした。

カラチのジンナー国際空港、運用再開します。

怒りの返答をしたツイッターユーザーがいた。

@alijawadnaqvi様、ご心配はごもっともですが、私の仕事は送られた情報をお伝えするだけですので
(@alijawadnaqviの「たわごとはやめろ、そこが安全かどうか確実じゃなかったら、皆の命を危険にさらすんだぞ」に対するツイート)

カラチ拠点のジャーナリスト、Omar Quereshiはツイートした。

民間航空局のツイート@AirportPakistanが悪いんじゃなくて、現実が悪いだけだよ。…よくやってるよ。

筆者は、ツイッター上で事態を鎮めた@AirportPakistanの「中の人」、ジャワド・ナジールに連絡を取ることができた。彼は2~3の質問に応じてくれ、しかも5時間後に試験を控えていたため急いで答えてくれた。

ジャワドはユース・インパクト(訳注:青少年リーダー育成のNGO)で野外活動指導員のボランティアもしている。写真はジャワドの公式Facebookページより。

ジャワドはユース・インパクト(訳注:青少年リーダー育成のNGO)で野外活動指導員のボランティアもしている。写真はジャワドの公式Facebookページより。

なぜ自分の時間とお金を使ってアカウントを運営しているのか尋ねると、彼は答えた。
「このアカウントの動機は、パキスタンにもきちんとしたところがあるな、というイメージを世界的に根付かせたいからなんです。ただでさえ、外国の人たちにとって大好きな国とは言えないんだし(-_-;)」
また、こう続けた。

I've seen major international airports tweeting to their passengers on a daily basis, so I thought ‘why not from Pakistan?’ So I started back in January this year, by updating delays and cancellations of flights on a daily basis.

主要な国際空港が乗客に向けて毎日ツイートしているのを見てきたので、「パキスタンでもやればいいじゃないか」って思ったんです。それで、今年1月から、航空便の遅延やキャンセル情報を毎日更新し始めました。

続いて、6時間のカラチ空港包囲攻撃の時の対応については、

Now in this situation of the attack I was expecting people to storm their questions towards the CAA account so despite my exam on Monday morning, I stayed up all night long answering people and trying to defuse the situation. It did work, and I also kept people informed about the [latest updates].

この攻撃の状況では、航空交通局アカウントに人々の質問が殺到するのは目に見えてたので。月曜朝に試験があるんだけど、徹夜で対応を続けて、事態を鎮めようとがんばりました。質問対応もやり、それに「最新情報」のお知らせもし続けました。

ジャワドはジャーナリズムと政治学の学位を持っているが、新たに経営管理学の学位を取得しようとしている。誤った情報をふるいにかけたり、中立のトーンを保つことができるあたり、さすがジャーナリズムの学士である。
カラチ空港攻撃の終結後、閉じ込められている(訳注:6月8日の銃撃戦の際、従業員らが保冷庫に逃げ込んだら爆撃で壁を壊され、出られなくなった)貨物会社従業員の救出活動が進行中のとき、彼はこうツイートした。

皆さま、どうぞ落ち着いてお待ちください。保冷庫での救助活動は2時間にわたり、現在も進行中です。#カラチ

カラチ空港包囲攻撃中の @AirportPakistan のツイート記録を読破してみて感じたのだが、不安がる旅行者からの何百もの問い合わせに対し、ジャワドは18時間もの間、礼儀正しく巧みに対応している。一流のジャーナリストにも、彼の更新に力強い賛同を寄せている人がいる。

@AirportPakistanに大きな拍手を。すごいことをやり遂げたのだ。簡単にできることじゃない。

写真はジャワドのインスタグラムより。

写真はジャワドのインスタグラムより。

ツイッターでやり取りしていた時、ジャワドは自分が「パイロット志願」でもあると言い足した。「ある航空会社のパイロット候補生に不合格でした。色盲だって言われたんですよ。違うと思うんだけど」

このつかの間のカラチ空港発砲事件により、いったん復旧していたフライトスケジュールはまた遅れたが、ジャワドはそれをモニターし続けた。試験が迫っていたにもかかわらず。BBCのアンバー・ラヒムといったジャーナリストや、主要航空会社の公式アカウントも、彼の投稿をリツイートした。

「@AirportPakistan: EK601便はカラチのジンナー国際空港からドバイ空港に向けて出発します。pic.twitter.com/yX055HQPPH」

@flysrilankan カラチ-コロンボ間は発着便とも保留になっております。
(スリランカ航空の「詳しい情報は+94777771979へ。パキスタン当局の離陸許可待ちです」に対するツイート)

@AirportPakistan 明日はどうですか? キャセイからタイ航空に変更したほうがいいでしょうか? シンガポール行きなんですが。
(「@aamnaisani タイ航空は本日欠航です」に対するツイート)

ロンドン経済界向けのオンライン新聞は去る3月、@AirportPakistanを公式アカウントと思いこんで、このような見出しの記事を書いている。「パキスタン空港の公式アカウントは、世界一楽天的で機転がきいている

ジャワドは、ツイッター公式アカウントの運営を承認してもらうため、パキスタン民間航空局の担当者に接触しようとしている。(現在のところ、公式アカウントは存在していない)。ジャワドは民間航空局公式サイトから運航情報を入手し、また「企業秘密」なサイト等を通じて運航状況を追跡している。

軍や政府がタリバンを抑えられず、この国に平和と安全をもたらすこともできないでいるにもかかわらず、へこたれないで頑張る若い起業家たちはパキスタンに大勢いる。ジャワドはその一例に過ぎない。

この記事のためジャワド・ナジールにインタビューを行ったのは、サハル・ハビブ・ガージー です。サハルはグローバル・ボイスの編集長で、カラチとサン・フランシスコの両方を行き来しています。 

執筆にあたりAnushe Noor Faheem の協力を得ました。

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